産業機械用無線操縦装置-朝日音響株式会社

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社史から・・・

2000,0821講習 最終校正2000,0823

 今日は「ボイスチェンジャー」の話。「ボイスチェンジャー」は、先月58~9歳で
亡くなった米津宏氏が、今から26~7年前に作り出して特許出願したもの。
同じ様な特許が同じ時期に日本コロンビアから出願されていた為に両方とも特許になって
しまった。両社は互いの商売を妨げない様にクロスライセンスの契約を結んだ。その中で
コロンビアが名付けた「ボイスチェンジャー」という商品名で両社共通に売り出したのが、
我が社の商品の元。

今はトミーからボイスチェンジャーと言う「ふにゃふにゃふにゃ」と声が変わる玩具が
売られているが、それとは違う。
正確に言えば「ボイス」ではなく「ボーカル」チェンジャーだった。
当時、大手も製品を見て すぐ真似をした。(この件は昔社報に連載した社史に載って
いる。社史はインターネットにも載っている。場合によっては社報に空きがある時、
もう一度 社史を繰り返しても良いかと思っている)

ソニーはボイスフェーダーと言う名前で真似をした。フェード、フェーディング・・・
音が段々小さくなっていく・・・電波によるフェージングだと思えば良い。それから
シャープがボイスマトリクス。セガがマジックマイク。ビクターがボーカレスユニット。
こういう商品名で各社が同じ様な商品を出して真似をしていた。
4年くらい経って特許が成立した為 各社では作れなくなり、我が社の前身・朝日音響
機器の方へ注文が来始めた。類似品を売っていた会社のうち 何社かは販売を止めたが、
ビクターはボーカレスユニットのVL-101と102を自社生産し、当社へはVL-
103の注文が来た。
セガはマジックマイクを売っていたが、マジックマイク2は朝日音響機器へ注文が来た。
私が入社したのは その注文の折衝をしている最中だった。注文を受けた後、試作品を
設計して作って出して・・・と言うのは、ほとんど私の手で行った。両社からの受注を、
まとまって生産する様になった頃、亡くなった前経営者は都合の良い事を言い、儲けだけ
受け取って、サッと会社から逃げてしまった。(悪く言えば そうなる)

ボイスチェンジャーでは、つまらないことが特許になっている。方式が特許になって
いるのだが・・・日本の特許は ほとんど役に立たないモノに(役人が)してしまって
からで無いと通してくれない。
例えば「マジックインキで書いたら消えない」と言うのは特許にしない。消えない為に
「こんな溶剤を使いました」とか「こんなインキを使いました」と言うのばかりが特許に
なる。インキさえ変えれば終わり(特許に抵触しない)。そういうのしか特許にしない。
自分の立場が大きな影響を与えるのが怖いから、皆そうしてしまう。
学校の先生でも「テストで全部成績を出していたら点数が出ているから、父兄から文句が
出ない」と楽な方へ走って・・・。生徒はテストは出来るけど 実力が全然無い、仕事が
出来ないと言う事になる。その反省からインターンシップをやってる・・・と言う事かも。

ボイスチェンジャーの特許は音を消す事ではない。それは何処でも やっていた事。
それでは何か?「完全に消えない歌声の上に自分の歌声を重ねれば、マスキング効果で
元の歌手の声が少しくらい残っていても分からない」・・・カラオケで声を張り上げて
ミキシングして歌いまくれば、消していない普通の音楽でも ほとんど聞こえず、自分の
声しか分からなくなる・・・・それが特許に なっている。

大元の声を消す技術は何かと言うと・・・この絵はレコードの溝。レコードの溝はV型で、
モノラルの頃は底が音声の波形通り上下するだけで良かった。ところがステレオになると
右と左を1本の波形で どうするのか?となった。そこで変わったのが、右の面と左の面に
別々の振動を刻む。右しか音がしない時は、左は鏡の様に平面。右だけ音がする。

針を当てていると、この様に45度に揺れるのばかりがピックアップされる。反対に
右の音が無く、左に音が入っているとすると、左から右上に向かっての揺れだけが残る。
そうすれば右と左は全く関係なく音を捉えられるから、1本の溝で左右の2つのマイクの
音として捉える事が出来る。これがステレオレコードの原理。
テープレコーダーになると違う。磁気テープが走っている。反対側にして使う事を考え
真ん中に区切りがあって、ここに右の音が「右右右右・・」左の音が「左左左左・・」と
続いている。反対側を使う時も同様に「右右・・」「左左・・」テープレコーダーの場合
は こういう風に流れているだけ。

カラオケの走りになったテープレコーダーというのは、8トラックと言うのがほとんど
だった。この絵のは4つだが8つあった。昔の大きなカーステレオは4チャンネル分。
その時は右ばかりが4つと左ばかりが4つと、右左が半分 離されていて一緒に一定間隔で
動いていく。何故こういう方法を取ったのかと言うと、隣の音が聞こえやすい=技術が
低い から。隣の音を分けるのが難しいので、ずらして行けと。ヘッドを作るのに、
「集中して右左とは、やりにくい。だから離して行け」と、こういう発想。

レコードに戻って、V溝で左右の音を捉えているということは、ある1点で同じ音を
出していると言う事。2本のマイクが有ったとすると歌手は、ほぼ真ん中で歌う。そう
すると2本のマイクには、ほぼ同じ波形が入っている。距離が同じ、位相も同じ、それを
利用して声だけを消す。
現実には10分の1や100分の1の音量に変わるのだが、人間の耳は優秀で10分の
1や100分の1になった位では消えたようには感じない。例えば今 正面に向かって
話しているが、正面に居る人にはキチンと声が聞こえている。どの位消えるかというと
「********」と、後ろに向いて口を押さえて喋っている・・・そういう感じの
音にしか聞こえなくなる。それでも それだけを聞いていると「消えてない」となる。

ステレオにボイスチェンジャーを付けても「消えると言うが全然消えてない、嘘だ」と
売れなかった。それで消えた様に思わせる為に、自分が歌えば自分の声で(残っている
声が)隠されて分からなくなる様にした・・・・それが特許。
それでは声を消すのは どうやっているのか? 先ほども言ったように同じ距離・同じ
音量・同じ波形で2つのマイクに対して声が入っていると、右の溝も左の溝も でこぼこ
具合が同じ形をしている。これを利用して、同じ波形だけを0にする。引き算をする。

引き算は位相を逆転させて足し算しても良いのだが・・・同じ波形を引き算したら0に
なるのは当たり前。普通のステレオアンプは2組あるが、ボーカルはマイク1つを左右
全く同じに分けている場合も多い。これを引き算したら0になるのは当たり前。
完全に消えない理由は、同じ距離・同じ強さでも、声は あちこちに響いて届くから。
主の波形が ほとんど消えていても残響音が、人間の耳には聞こえてしまう。
普通のステレオでは具体的に どうしているかというと、溝に当たったピックアップと
いうところから、マグネチックカートリッジ等で右と左にコイルで引っ張り出してきて、
その電圧を右左別々のアンプに入れて動かしている。最後はスピーカーが別々に鳴る。

これに途中からミキシングして、普通は歌う時は右と左全く同じマイクから入れる。
ここで右/左と言うのは、中間の どこかを切って片方の波形を逆にして、これを もう
一度元に戻す。ここにボイスチェンジャーを入れる。実際は 前段に入れる方が良い。
アンプになってからでは パワーアンプが要るから。
前にボイスチェンジャーを入れて・・・右のアンプ左のアンプ・・・スピーカー・・・
前段で波形を0にして後段へ持っていく。そうすると声が消えた音が出る。しかし位相を
合わせると声だけではなく、後ろの(2本のマイクに対し)同じ様な距離で同じ様な音を
出している楽器の音も消えてしまう。特に低域の音は消える。

少しでも離れると、同じ波形で なくなるのは周波数の高い(波形が細かい)音。少し
ずれただけで波形が変わり、左右が同じで なくなるから、引き算しても消えずに残る。
ところが低い音(ベースギターやドラムなど)は、全体の波長が長い為、多少位相
(波形の位置)が ずれていても、全体は殆ど変わらない波形同士となり、引き算すると
消えてしまう。そういう事で声以外に、楽器の低い音も消えてしまう。
コロンビアが自社生産した機械は、歌い始めてボイスチェンジャーが働くと バックの
伴奏から低音が消えて貧相になってしまっていた。

それに業を煮やしたのが発明者の米津宏氏。どうしたかと言うと、最初に元の音に
足し算・引き算しする前にフィルターを通して、低い音を切り取ってしまっている。
ハイパスフィルター。低い音は引き算に持って行かない。人間の声は300Hz以上
あれば普通に聞こえる。声の成分だけを選んで引き算し 後から、切り取って有った低い
音と合成する。声だけ消えて低音は残り、貧相な音楽が少しマシになった。

しかしステレオじゃ なくなっている。右も左も無い信号になっているから、歌い
始めると音楽の広がりが おかしくなる。
製品にオートマチックボイスチェンジャーと名前が付いていた様に、歌い始めると その
動作が始まり、歌うのを止めると元の歌手の声が出てくる。これは比較的簡単なこと。
アマチュア無線のマイクでも、昔は送信スイッチを押してから話を していたのが、
この頃は押さなくても しゃべり始めると自動的に音を拾ってくれるボックス回路と言う
のが有る。それと同じが応用されている。マイクに向かって歌うと自動でスイッチング
され、歌い始める事で歌手の声が消えて自分の声が入り始める。歌手の声が残っていても
大きな声で歌えば良い。

家庭用には売れなかったが、ジュークボックスに取り付ける機械としては売れて商売に
なった。ジュークボックスは歌う為に100円入れているのだから、消えるか消えないか
わざわざ確認したりしない。とにかく歌う。消えて無ければ もっと大きな声で歌う。
ごまかしてモノは売れる。そういう状態だった。

そのころテープジュークと言う機械が出始めた。今のカラオケの大元。ちょっと昔の
カラオケはレーザーディスクとかは無くて、テープを入れていた。8トラックという
大きなカートリッジを入れる、初期のカーステレオで出ていたテープ。
あの頃はカラオケと言う言葉が無くてテープジューク、つまりテープによるジューク
ボックス。自分でテープを出し入れして、右左併せて8トラック、4チャンネルの音楽を
自分でスイッチを押して、先に送って選ぶ。

それは元々カラオケとして出来ているから 最初から声が入ってない。そういうのが
出回る様になると、声を消す機械は要らない。売れない。それで この商売が終わりと
思った前経営者は うまく経営から手を引いた。

テープジュークも 普通のカーステレオ用の声の入ったテープで 出来ないのか?
これは上手く行かなかった。ヘッドを くっつけて作るのが難しいと言う話を先にしたが、
レコードの針は先が1点しかない。先が多少丸くなっていようが どうしようが1点。
レコードの溝の通り拾っていると右左の場所は一緒。
ところがテープレコーダーでテープにヘッドを当てると(ヘッドを作っている会社が
イイ加減とは言わないが)右を拾う部分と左を拾う部分、この音を拾う部分「ギャップ」
と言う ほんのちょっとの場所の位置が、物によって違っていた。

最近の高品質製品は巧くできている様だが、当時は違っていた。マイクの場所が違って
いる様なモノで、時間がズレていた。位相を合わせようとしても声が消えない。
と言う事でテープ用のボイスチェンジャーは ほとんど作られなかった。
それはテープの品質が悪かっただけ。録音のヘッドも ピッタリのであると限らない
から、いくら再生する機械がキチンとしていても、元の録音テープ自体がキチンとして
いるとは限らない。ステレオで聞いている分には分からないが、位相合成で合わせて
みれば、割れた茶瓶が きっちり合うのか?と言うのと同じで、合わない。場所がズレて
いる。それで消えないからテープ用は売れなかった。

当時レコードを使っているジュークボックスが ほとんどだったので業務用のモノ
だけが売れた。家庭用が売れなかった理由は、家で買ってステレオに付けてみて、歌声が
消えるかを試す人が多くて、結局「消えてない」って事で返品ばかりだったから。

当時は物品税が付いていて、ステレオ用に売ると その分を鳴門税務署に納めていた。
ところが返品が有ると それを翌月返してもらう。「売れた」「返品」「売れた」「返品」
の繰り返しで税務署の方が面倒くさくなって「もうええわ!」と言ったという話。
その物品税はモノラル用には掛からない。モノラルは贅沢品ではなくステレオは贅沢品。
20数年前ホームビデオが出てきた。当時値が高いにも関わらず物品税は掛かって無い。
それは税務署の書類の中に ビデオテープレコーダーが無かったから。ビデオは業務用
だったから物品税が掛からない。等と言う役所の話があって、ビデオは税金が掛からない
まま、かなり長期間売っていた。

同じ様な話で、ウインチの付いた四輪駆動車と、大型冷蔵庫(200か300リットル
以上の冷蔵庫)は業務用だから物品税が掛かってない。いつか どこかで役人が適当に
決めたのを ずっと守らなければイケナイと言う事で残っている。
大型冷蔵庫には物品税が掛からない。四輪駆動車も10万円のウインチを買って付け
たら物品税が掛からなくなって車自体が安くなる。そういう状態が かなり長く続いた。
「ウインチの付いた車は業務用の作業車である。一般の庶民が乗る贅沢な乗用車とは違う。
だから税金が安い」との事で、税金の額がウインチの金額を上回るほど安くなって、
ウインチを付けた方が 車が安い。そんな事が起きていた。

似たような事で、当社で前に使っていたサービスカーのマイクロバスは、26人乗りを
7人乗りに改造して 1トンの貨物乗用車、つまりライトバンにしたら 1ナンバーで
トラックと同じ扱いになった。当時で税金が6千円くらい。
普通乗用車や大型乗用車の税金に比べ、年6千円で済んだ。その代わり車検は1年。
お役人の知識の足りない所で決めて、決めた通り!と言っているのが、はずれて税金が
掛からないと言う事である。

ボイスチェンジャーの特許は5年くらい前に消えている。これが意味するのは、特許の
有効期限20年の間、発明者であり前経営者である米津氏は、特許は取ったが ほとんど
儲ける事が無かったと言う事。(特許を使用したのは)私が設計したセガの2000台と
ビクターの1000台だけで、他社は使っていないから。
納品価格は1万数千~2万数千円くらいだったから 全部で4000~5000万の
売り上げと言ったところ。自分の会社の売り上げだから特許の実施料は入らない。

自分の特許を自分で売ったところで何になるのか。特許というと「儲かるだろう」と
思うが、それは嘘。発明王で 特許を100も持っていると言う人は、その中の1個か
2個の特許が お金になるのであって、その お金になる1個か2個の特許商品が相当
売れたとしても、入ってくるロイヤリティーは卸額の2%か3%。
その2%か3%で100件の特許の維持費を払う。特許を1件持っていると維持費は
年間5~6万円要る。出願の時に1件30万円要る。100件の特許を持つ発明王は、
特許の申請費だけで3000万円払っている事になる。そして毎年維持費に300万円は
払っている。これには年金という名前が付いている。
年金と言うと貰えるのかと思っていたが払わなければ いけない。その300万円の
維持費を1つか2つの特許で捻出しようとしたら、300万の100倍くらい物が売れて
無ければ いけない訳で、「発明王」と言っている人の ほとんどは器用貧乏で、発明に
血道を上げる格好ばかりの人と言う事になる。世間の普通の見方と現実は違う。

その辺に発明王と自称する人が居れば「くすっ」と笑って ちょっと軽蔑してあげて
ください。


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